東京ガス株式会社
ボイスボットの課題を乗り越え、ガス開閉栓電話受付の自動化を実現
引越し繁忙期のAI対応完了率は最大96%を達成
導入サービス
CAT.AI CX-Bot
業種
電気・ガス業
活用対象
ガス閉開栓受付
東京ガス株式会社は、お客さまセンター(コールセンター)対応における顧客サービス向上と、引越しの繁忙期を中心に急務であった業務効率化を目的に、AIを活用した自動化システム「CAT.AI CX-Bot (キャット エーアイ シーエックスボット)」を2024年2月に本格導入しました。お客さまセンター受付の約半数を占める、ガス開閉栓受付の自動化で活用されています。
導入背景や抱えていた課題、運用シーンや導入後の効果、今後の展望などについて、東京ガスカスタマーサポート株式会社 デジタル化推進部 デジタル企画グループ 有馬 里咲子氏にお話を伺いました。
※記事中の肩書や内容はインタビュー当時(2024年8月30日)のものです。
課題
- コールセンターの負担軽減および対応品質向上のため、電話対応業務の効率化が課題だった
- Web受付の改善には力を入れてきたが、Webを閲覧せずに電話をかけるお客さまが多く、電話対応の自動化が必要だった
- 4~5年に渡りガス開閉栓の電話受付の自動化を検討していたが、聴取内容やシステム連携の難易度が高く実現できていなかった
施策
ボイスボット(音声)とチャットボット(テキスト)を一つのプラットフォームで同時に利用できる『CXマルチモードAI®』を搭載した「CAT.AI CX.Bot」を導入
効果
- 2024年3月の繁忙期にはAI対応完了率※1最大96%を達成
※1 AIを利用した対応のうち、途中切断等を除きAIが設計通りに対応をすべて完了した割合(AI完遂率ともいう)
漢字や住所の認識精度の課題を、
ボイスとチャットの同時利用で解決
はじめに、担当されている業務内容を教えてください。
デジタル化推進部デジタル企画グループは、全社のデジタルツールやシステム関連の管理・企画をしている部署です。私は社外向けのWebフォームやFAQ、チャットなどのコンテンツ企画の担当をしています。
今回のボイスボット導入は、お客さまセンターの管理者など他部署も含め、社内横断でワーキンググループを組んで進めました。
弊社サービスを導入する前に、直面していた主要な課題は何でしたか?それらの課題に対して検討した、または実施した解決策を教えてください。また、弊社の製品を選定いただいた理由もお聞かせいただけますか。
東京ガスのお客さまセンターでは、繁忙期と閑散期の入電数の差が大きく、人材確保に苦慮する場面があります。引っ越しシーズンの3~4月には、多くの問い合わせが集中するため、コールセンターにかかる負担も大きく、お客さまへの対応品質向上のためにも、電話対応業務の効率化が課題となっていました。Web受付の改善にはかなり力を入れてきましたが、そもそもWebを閲覧せずに電話をかけてこられるお客さまも多く、電話対応の自動化が必要でした。
特に、問い合わせの約半数を占めるガス開閉栓受付の自動化は、2020年頃からボイスボット導入に向けて検討を重ねていましたが、聴取内容やシステム連携の難易度が高く、これまで実現に至っていませんでした。
既存のお客さまセンターのオペレーションを
踏襲する運用で、ボイスボットの導入ハードルを下げる
CX-Botご利用シーンについて教えてください。
携帯電話のお客さま向けに、ガス開閉栓受付として活用しています。代表IVRからボイスボットに分岐し、電話をしながらショートメッセージに移行し、チャットボットの質問に答える形で住所やお名前など必要事項をテキストで入力してもらう流れです。
▲東京ガスさまでの「CAT.AI CX-Bot」利用イメージ
運用開始までに大変だったことはありますか?
シナリオの構築は既存の電話応対のスクリプトおよびWebフォームの受付フローを基に作成いただいたので、こちら側の負担は大きくなかったです。本当に感謝しています。
運用面では、ボイスボットで完了せずコミュニケーターに転送されたものは、ほかの入電と同じ扱いで最初から受け直すルールにしたため、お客さまセンターとの調整も問題なくスムーズに実施できました。電話応対のルールを変更するには1,000人以上いるコミュニケーターへの教育が必要なため、運用のハードルが一気に上がってしまいます。将来的には専用チームをつくるなどしてボイスボットでの応対履歴を踏まえた対応ができる状態が理想ですが、最初は割り切って、可能な範囲からでもボイスボットでの自動化をスタートさせることを重視しました。
社内調整の面では、有人対応削減・無人完結率向上という全社共通の目標に合致するプロジェクトだったこともあり円滑に進みました。Webへの誘導は手を尽くしていますが、Webを閲覧せずに電話する方がまだまだ多く、電話受付の自動化は即効性のある施策として理解が得られたため、社内からの大きな反発はありませんでした。
CXを考え抜いたシナリオ設計と
運用後も続く手厚いサポート体制
運用される上で工夫されている点を教えてください。
お客さまは、老若男女さまざまで、人の対応を好むお客さまも一定数います。その中でボイスボットしか選択肢がなくなると、路頭に迷ってしまうお客さまも出てくるかもしれません。自動化は進めたいですが、必要な手続きができなくなってしまっては、お客さまにとっても、当社にとってもお互いに良くありません。
こうした状況を回避するため、代表IVRの分岐でボイスボット一択ではなく有人対応も選べるようにしています。ボイスボットの利用を広げる意味では逆行しますが、選べるようにすることで、ボイスボット導入に対するクレームは今まで一件も来ていません。 ただ、ボットか人か好きな方を選んでくださいという選び方ではなく、「(ボットで受付できない)日時変更等はオペレーターにお繋ぎするので2を選んでください」という案内にしています。受付だけでなく、変更や取り消しなどもすべてボットでできるようになった際には、電話受付をボットに集約する日が来るかもしれません。
弊社のセールスやサポート体制に対する評価を教えてください。
サポート体制はとても手厚く、レポートも毎日詳細に出してくれて改善提案も的確にしてくれています。継続的に効果的なご提案をいただき、感謝しています。
構築の際も、こちら側は何のノウハウもない状態で頼り切りでしたが、無事運用開始に至るまで導いていただき安堵しました。
シナリオ構築やチャットボットのフォームデザイン作成は、こちらからは細かい文言やコーポレートカラー等を指定したくらいで、大枠はほとんどお任せできました。導入後も、電話をしながらチャットボットに移行するシナリオやチャットボット内での入力や選択に関して、お客さまができるだけ迷わず完結できるよう、日々のログ分析から有効な改善提案をどんどん出してくれて、サポート体制には感動しています。様々なベンダーさんと関わりがありますが、修正対応やレスポンスの速さはピカイチです。
ボイスボットに限らず新しいツールを入れる際に、サポート体制の手厚さは非常に重視している条件です。運用後のサポート体制も含めて大切な観点なので、トゥモロー・ネットさんを選んで本当に良かったです。
これまで手立てがなかった開閉栓受付のボイスボット導入
で、自動完結を実現できたことは大きな成果
導入後の効果について教えてください。
2024年3月の繁忙期にはAI対応完了率は最大96%を達成しました。
AIの精度は非常に良いと思います。一番の目標である無人完結率※2も新規開栓で35%以上と、予想より多くのお客さまがAIだけで受付を完結できている状況です。
※2 AIを利用した受付のうち、手続き完了まで一切人手を介さず自動で完結した割合
代表業務であるガスの開閉栓受付はボイスボットでは困難だとずっと言われていましたが、自動完結を実現できたことは社内的に大きな成果です。これまで取り組んできたWeb受付率向上の施策に加えて電話受付の自動化ができたことで、電話業務効率化を検討する幅が広がりました。ボイスボットの活用は、他の業務への展開も視野にいれています。
CX-Botを導入してから、カスタマーサポートの業務効率は向上しましたか?
ボイスボットで対応している範囲がまだ限定的なので、お客さまセンター全体の数値的には大きなインパクトには至っていませんが、無人完結件数は有人の工数削減に直結しています。
今後の展望を教えてください。
今は電話設備や基幹システムの都合でいろいろと制約がある状況ですが、将来的には、更にボイスボット回線を増やし、データの連携方法もAPI連携に改修することで、受付だけでなく変更や取消もボイスボットで自動化できると考えています。また、ガス開閉栓にとどまらず、他業務へもボイスボットでの対応範囲を広げ、無人完結件数を増やしていく事を視野に入れて検討を進めています。