【ボイスボットとLLM連携】コールセンターでのメリット・課題をわかりやすく解説
コールセンターではよく、「想定外の質問が来るとAIが対応できない」「自由に話しても内容が正しく伝わらず、同じ説明を繰り返すことになる」といった課題が聞かれます。
従来のボイスボットは、複雑な表現や例外的な要望があると、適切に対応できないという課題がありました。また、FAQや手続き内容が更新されるたびに、シナリオや応答文を手作業でメンテナンスする必要があり、運用の負荷も大きくなりがちでした。
近年注目されている LLM(大規模言語モデル)との連携は、こうした「シナリオ頼りの対話」や「運用の手間」といった課題を緩和し、より柔軟で自然な会話型のボイスボットを実現するための有効なアプローチです。
本記事では、コールセンター業務に注目し、LLM連携型ボイスボットのメリット、そして導入前に知るべき課題や注意点をわかりやすく解説します。この記事を通じて、LLMを活用したボイスボットの効果や活用方法を理解し、導入検討へと進むための具体的なヒントを得られます。
Index
LLMとは?なぜコールセンターのボイスボットで注目されるのか
LLM(大規模言語モデル)は、顧客体験を大きく変える技術として注目されています。従来のボイスボットやIVRが抱えていた課題と、それをLLMがどのように解決するのか見ていきましょう。
LLM(大規模言語モデル)の基本と従来のAIとの違い
LLM(大規模言語モデル)とは、膨大なテキストデータを学習し、人間の言葉の「文脈」や「意図」を深く理解できるAI技術のことです。
従来のコールセンターで使われてきたAIの多くは、あらかじめ設定された「ルール」や「シナリオ」に基づいて応答するものでした。例えば、顧客の「Aについて知りたい」という言葉を「A’」という意図に分類し、用意された回答を返す、といった仕組みです。
これに対しLLMは、入力された内容に応じて、その場で柔軟に言葉を補完、推測し、文章を新しく生成することができます。そのため、従来のAIが苦手としていた曖昧な表現や、シナリオにない複雑な文脈にも対応が可能です。
コールセンターにおける従来のボイスボットやIVRの課題
従来のシナリオ型ボイスボットやIVR(自動音声応答システム)は、コールセンターの効率化に貢献してきた一方で、顧客体験の面で課題を抱えていました。
例えば、「ご用件の番号を押してください」といったプッシュ操作は、顧客にとっては手間です。また、シナリオから外れると対応できないため、顧客がイレギュラーな質問をしたり、話し言葉で自由に用件を伝えたりすると、AIは意図を理解できず、最終的にオペレーターへ転送されることになります。これが顧客のストレス要因となっていました。
また、コールセンター運営側の課題としては、FAQや手続き内容が更新されるたびに、シナリオや応答文を手作業でメンテナンスする必要があり、運用の負荷も大きくなるという点がありました。
LLMがボイスボットの課題をどう解決するのか
LLMの高度な文脈理解能力や自然な会話生成能力は、こうした従来の課題を解決します。
音声での認識が可能なため、IVRのプッシュ操作が苦手な方や、テキスト入力に不慣れな方でも、まるで人と話すようにスムーズに問い合わせを完結できるようになります。
また、コールセンター運営側はFAQや業務ルールが更新されても、LLMが文脈や意図を理解して最新情報をもとに回答内容を自動で調整するため、細かいシナリオ改修に追われにくく、運用負担を軽減することも可能です。
コールセンターにおけるLLM連携ボイスボットのメリット
LLMをボイスボットに連携させることで、主に3つのメリットが期待できます。
メリット1:「話し言葉」をそのまま理解する自然な対話体験
従来の音声IVRやボイスボットは、「決められたフレーズで話す」「特定の言い回しで伝える」ことを前提とした仕組みのため、少し言い換えただけで意図が伝わらない、質問の途中で案内が止まってしまう、というストレスが発生しがちでした。
LLM連携型ボイスボットでは、顧客の話し言葉に含まれる曖昧さや文脈を理解できるため、顧客は「自分の言葉」でそのまま用件を伝えることができます。
- 「月末の支払いってどうなるんだっけ?」
- 「引っ越すから住所変えたいんだけど、手続きって何すればいい?」
といった自然な話し方でも会話が成立するため、「何を言えば伝わるのか」を考える必要がなくなり、問い合わせ体験そのものが大きく改善します。
メリット2:複数意図が混在する複雑な問い合わせへの対応
「AとBを同時に確認したい」「〇〇の件で電話したが、ついでに△△も聞きたい」といった、複数の要素が混ざった問い合わせにも対応が可能です。
従来は、複雑な会話が始まるとAIでは対応できず、オペレーターが最初から要件を聞き直す必要がありました。LLMは会話の文脈を理解し、情報を整理して応答できるため、AIが対応できる範囲が広がります。
結果として、従来はオペレーター対応が必須だった領域の一部自動化に繋がり、コールセンターの業務効率化に貢献します。オペレーターの応対時間削減や一次解決率の向上に貢献する点も大きなメリットです。
メリット3:ボイスボットのシナリオ運用・保守の効率化
従来のボイスボットは、新しいキャンペーンやFAQが追加されるたびに、膨大な分岐シナリオを手動で設定・修正する必要がありました。
LLMを活用し、信頼できる社内データベースなどを情報源として参照させることで、シナリオを厳密に組まなくても、LLMがルールに基づき柔軟に回答を生成できるようになります。
例えば、新しい手続きが追加されても、LLMの参照先であるマニュアルやデータベースを更新しておけば、LLMがその新情報を基に応答を生成してくれます。従来のボイスボットのように、会話の分岐パターン(シナリオ)を一つひとつ手作業で設定・修正する必要がなくなり、更新作業は「ナレッジ側を修正する」だけに集約され、運用・保守の工数が大幅に軽減されます。
LLM連携ボイスボット導入の課題とコールセンター特有の注意点

LLM連携ボイスボットは多くのメリットをもたらす一方で、導入前に必ず理解しておくべき特有の課題や注意点があります。
回答の正確性と「ハルシネーション」のリスク
LLMには、学習したデータに基づき、事実とは異なる回答を生成してしまう「ハルシネーション」という特有のリスクがあります。
特にコールセンター業務において、誤った料金や手続き方法を案内することは、顧客の信頼を失う重大な問題に発展しかねません。そのため、回答の根拠となる情報源を社内データベースなどに制限したり、参照したりする仕組み(RAG:検索拡張生成など)を導入することが重要になります。
ただし、この仕組みを導入するだけでは十分ではありません。参照するデータ(社内のFAQやマニュアルなど)自体の質が低かったり、情報が古かったりすれば、回答の正確性は当然低下してしまいます。LLMの回答の質は、「ハルシネーション対策」と「参照データの質・更新性」の両輪で決まる点に注意が必要です。
会話の遅延発生
LLM連携ボイスボットは、従来のAIよりも応答に時間がかかる傾向があります。
これは、
- 顧客の音声をテキストに変換する(音声認識)
- テキスト化された内容をLLMが処理し、回答(テキスト)を生成する
- 生成されたテキストを音声に変換する(音声合成)
という複合的なプロセスを経るためです。
メールやチャットと異なり、音声会話における数秒の沈黙は、顧客に「電話が切れたのでは?」「フリーズした?」といった不安を与え、電話を切ってしまう離脱の原因となるため、応答までの時間に対する配慮が必要です。
ただし、近年はLLM自体の応答速度の最適化や、音声を途切れさせずに処理するストリーミング技術の向上により、遅延は徐々に短くなっています。
セキュリティとコンプライアンス(個人情報)
コールセンターでは、住所・氏名・口座番号などの個人情報を音声で扱います。音声やテキストをそのまま外部のLLM APIに送信する運用は、セキュリティ・コンプライアンス上のリスクがあります。
そのため、利用するLLMをどこで動かすか(クラウドかオンプレか)、どの範囲までデータを渡すか(問い合わせの要点のみか、全文か) といった設計が重要です。
個人情報を含む場面はオペレーターに接続する、閉域/オンプレ環境でLLMを稼働させるなど、システム構成・運用ルールの両面で対策が求められます。
音声認識(STT)の精度
LLMがいかに高性能でも、その前提となる「音声認識(STT:Speech to Text)」の精度が低ければ機能しません。
例えば「解約(かいやく)」を「契約(けいやく)」と聞き間違えたテキストがLLMに渡れば、LLMは間違った指示に基づいて回答してしまいます。周囲の雑音(例:街なか、駅のホームなど)、方言、声の大小、話す速度など、様々な条件の下で、いかに正確に音声をテキスト化できるかが、LLM活用成功の大前提となります。
LLM×ボイスボット導入を成功させる3つのポイント
では、これらの課題を踏まえ、LLM連携ボイスボットの導入を成功させるためには、どのような点に気をつければよいでしょうか。3つのポイントを解説します。
ポイント1:目的の明確化とスモールスタート
「問い合わせをどれだけ削減したいか」「どの業務を自動化したいか」を最初に具体的に定義することが重要です。
まずは頻度が高く、回答の根拠となる情報が明確な問い合わせ領域からスモールスタートすることをおすすめします。LLMは柔軟に回答できる一方で、回答の揺れ幅が出やすいため、段階的に適用範囲を広げていく方が、運用負荷やリスクを抑えながら定着させることができます。
スモールスタートにすることで、
- 効果検証がしやすくなる
- オペレーションへの影響を最小限にできる
- 社内での「AI応対」への理解や合意形成が進む
といったメリットが得られます。
ポイント2:話速・ターン設計(応答テンポの最適化)
LLMは自然な表現で回答できますが、長文になりやすく、音声で読み上げると「聞き逃してしまう」「覚えられない」と感じられることがあります。
そのため、音声LLMでは話す速さと1ターンあたりの情報量を設計することが重要です。
- 話速はややゆっくり:理解しやすくなる
- 回答は結論→手順の順で短く区切る
- 理解確認の間を挟む:一方的な読み上げを避ける
LLMは柔軟に文章を生成するため、応答テンポやターンを動的に調整する設計が必要です。つまり、LLMの性能だけでなく「どう話すか」を設計することが成果を左右します。
ポイント3:ナレッジの構造化と参照の仕組み
LLMの品質を安定させるためには、回答の元となるFAQ、マニュアル、社内ドキュメントなどの情報を整理し、参照しやすい形で構造化しておくことが重要です。
単にデータを大量に与えるだけでは、正確性が揺らぎやすく、更新や改善も難しくなります。
「どの情報を、どの粒度で、どの場面で使うか」を整理したうえで、検索(RAG)や対話フローに組み込むと、安定した応答品質につながります。
LLMの特性を理解し、コールセンターの顧客体験を向上させよう
本記事では、LLM連携ボイスボットがコールセンターにもたらすメリットと、導入時の課題・注意点について解説しました。
ボイスボットとLLM連携により、音声対話の可能性は広がりました。しかし、LLMは万能ではありません。その特性や強み・弱みを理解した上で、コールセンター業務に適した形で活用することが重要です。
自然で柔軟な対話が可能な反面、内容の誤認による回答の正確さや、長文による聞き取りにくさといった課題もあります。
トゥモロー・ネットが提供する「CAT.AI マルチAIエージェント for Voice」は、ボイスLLM機能により自然で柔軟な対話を実現します。さらに、独自開発のCXマルチモードAI®により、ボイスボットとチャットボットをオールインワンで提供できるため、音声とテキストのマルチモーダル対応も可能です。
カメラやGPSなどの機能を活用して情報を正確に把握することで、LLMに渡す情報の精度を高め、従来のボイスボット単体では難しかった複雑な問い合わせにも対応できます。
具体的な「導入事例」をまとめた資料もご用意しておりますので、ぜひダウンロードして、自社での活用イメージを具体化にお役立てください。
CAT.AI マルチAIエージェント for Voice を導入し、AIとCXデザインを融合させて成果を出している3社のリアルな取り組みを紹介
この記事の筆者

株式会社トゥモロー・ネット
AIプラットフォーム本部
「CAT.AI」は「ヒトとAIの豊かな未来をデザイン」をビジョンに、コンタクトセンターや企業のAI対応を円滑化するAIコミュニケーションプラットフォームを開発、展開しています。プラットフォームにはボイスボットとチャットボットをオールインワンで提供する「CAT.AI CX-Bot」、複数AIエージェントが連携し、業務を自動化する「CAT.AI マルチAIエージェント」など、独自開発のNLP(自然言語処理)技術と先進的なシナリオ、直感的でわかりやすいUIを自由にデザインし、ヒトを介しているような自然なコミュニケーションを実現します。独自のCX理論×高度なAI技術を以て開発されたCAT.AIは、金融、保険、飲食、官公庁を始め、コンタクトサービスや予約サービス、公式アプリ、バーチャルエージェントなど幅広い業種において様々なシーンで活用が可能です。
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