LLMにおけるファインチューニングとは?RAGとの違いと活用シーンをわかりやすく解説
近年、生成AIや大規模言語モデル(LLM)が注目され、企業のDXや業務効率化の現場でも導入が進んでいます。しかし、導入を進める際には「自社業務に合わせてどのような調整が必要か」を判断することが重要です。企業ごとに扱うデータや業務内容は異なるため、業務の特性を理解したうえで最適な調整方法を検討する必要があります。
こうした背景の中で、汎用モデルでは届きづらい領域を埋める方法として、ファインチューニングが検討されるケースが増えています。これは、既存のモデルに自社の情報を学習させ、特定業務での回答精度や表現を向上させる手法です。業務の一貫性や正確性を向上させることができます。
一方、情報が頻繁に更新される業務や、多くの文書・データを参照して回答する必要がある場合には、RAGという選択肢もあります。
本記事では、LLMのファインチューニングの向いている領域・活用シーン・導入時の課題を解説します。この記事を通して、自社の業務にファインチューニングが必要か、あるいはRAGを活用するべきかといった実務的な判断材料を得られるようになります。
Index
ファインチューニングとRAGの違い|LLM活用で押さえたい考え方と向いている領域
LLMを業務に活用する際は、「モデルに知識を覚え込ませるのか」「外部の情報を参照させるのか」で設計が変わります。
この章ではそれぞれの違いや、どんなときに効果を発揮するかを整理します。まずは、モデル自体を強化するアプローチであるファインチューニングから解説します。
ファインチューニングとは
大規模言語モデル(LLM)は汎用的に学習された状態で提供されています。そのままでも幅広く使えますが、企業が求める回答品質・専門表現・判断基準とは完全には一致しないケースもあります。そこで検討されるのがファインチューニングです。
ファインチューニングが向いている業務領域
既存モデルに企業固有の情報やルールを追加で学習させることで、次のようなメリットがあります。
- 専門領域における回答精度の向上
- 企業独自の表現・フォーマットへの対応
- 固定ルールや基準に基づく応対品質の担保
つまり、業務ルールが固まり、表現のブレを許容しにくい領域で力を発揮する手法です。
RAGとは
一方、RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、必要な情報を外部のデータソースから検索し、その内容を参照しながら回答する仕組みです。モデル自体を再学習するのではなく、手元のナレッジやドキュメントを活かして回答精度を高めるアプローチです。
RAGが向いている業務領域
文書やナレッジをそのまま活用できるため、次のようなメリットがあります。
- 最新のマニュアルや社内文書を直接参照できる
- 運用中に更新される情報へ柔軟に対応できる
- 大量のナレッジを横断検索し、回答精度を高められる
つまり、都度更新が必要な情報を扱い、最新性や柔軟さを重視する領域で力を発揮する手法です。
では、どの領域にファインチューニングが必要で、どの領域はRAGが向くのか。次章ではその判断に役立つ3つの軸を整理します。
ファインチューニングとRAGはどう選ぶ?3つの判断軸

ファインチューニングとRAGは、業務要件や運用設計に応じて使い分けることがポイントです。整理する際の目安として、次の3点を押さえておくと状況を整理しやすくなります。
- 情報の更新頻度
更新が多い情報や、状況変化が前提になる業務では、RAGで外部データを参照する運用が負担になりにくい設計です。 一方、ファインチューニングは再学習が必要なため、更新サイクルが短い領域ではコストが膨らみやすくなります。
- 専門用語や独自表現の必要性
社内の慣習、法務・契約関連、医療・金融など、表現の統一が欠かせない領域では、ファインチューニングによって回答の精度や表現を固定しやすくなります。
- メンテナンスコスト・内製体制
ファインチューニングには、データ整備・検証・再学習といった工数が発生します。 自社で伴走できる体制があるか、外部委託が前提か、といった運用設計が判断材料になります。
多くの業務では情報の変化や更新対応が避けられないため、まずはRAGで幅広く対応しつつ、専門性が求められる箇所だけファインチューニングで補強する形が現実的な選択となります。
幅広い業務領域でLLMを適用させるRAGについては以下でも詳しく解説しています。
失敗しないRAG実装|システム活用の基礎から機能、導入のポイントまで
ファインチューニングとRAGが効果を発揮する業務例
ファインチューニングが向いている業務シーン
- 固定文体・厳密な表現が必要な文章生成(報告書、公式文書など)
語彙選択や文体を統一する必要があり、ブレのないアウトプットが求められる場合、モデル側に表現ルールを覚えさせると、編集負荷が減り品質が安定します。 - 専門領域の回答精度向上(法務・医療・金融など)
専門用語や判断基準が固まっている領域では、汎用モデルのままでは精度が揺らぎやすいです。固有ルールを学習させることで、応対品質が底上げされます。
RAG が向いている業務シーン
- カスタマーサポート(FAQ・トラブルシューティング)
仕様変更や手順の更新が日常的に発生し、回答内容が変わり続ける領域では更新された情報を参照しにいく方が、精度とスピードを両立しやすいです。 - コールセンターのナレッジ参照支援
コールセンターにおいては、オペレーターが対応中に大量のナレッジへアクセスするケースが多いです。ナレッジを横断検索し、必要箇所だけ取り出せると、習熟負荷を抑えながら応対品質を維持しやすいです。 - 社内ナレッジ検索・文書理解
マニュアルや手順が頻繁に更新される環境では、「学習し直す」より「最新文書を参照する」ほうが現実的です。改定サイクルに左右されず、運用コストを抑えられます。
固定化された情報を扱い、品質をあげたい場合はファインチューニング、変動し続ける情報を取り扱う場合は RAGといった前提で使い分けると、開発コストと運用コストのバランスが取りやすくなります。
導入・運用のリアル ― 運用負荷と導入コストの課題
LLM の活用はデータ整備・更新・運用体制といった現実的な負荷が避けられません。ここでは、とくに課題になりやすいポイントをファインチューニング、RAG両方の側面で整理します。
ファインチューニングの課題
ファインチューニングは、モデルに企業固有のルール・表現・判断基準を学習させることができる点が強みですが、運用には次のような負荷が伴います。
- 再学習が前提になる
情報が変われば、都度モデルを学習し直す必要があるため、更新工数が発生します。
- 学習データの品質が成果を左右する
表現の揺れや誤記が混ざると、モデルは誤った判断を学習してしまいます。そのため、データ整備のルール化やレビュー体制が不可欠です。
- 「内製か外注か」 の判断が避けられない
ベンダー依存にすると、改善サイクルが遅れやすくなり、自社運用に寄せると人材育成コストが必要になります。
つまり、情報の正確さ・一貫性のメリットの反面、更新コストと体制整備の負荷が大きいことが課題となります。
RAGの課題
一方RAG は、最新情報の参照やナレッジ横断が得意ですが、次のような課題もあります。
- 検索精度が「参照元の質」に依存する
文章構造が整っていない、情報が散在している場合は期待どおり検索されないことがあります。これはRAGの精度が悪いのではなく「ナレッジ整備の問題」であることが多いです。
- 運用が始まってからの更新が止まりやすい
情報更新は属人的になりがちで、参照元の情報を最新の状態にすることが難しくなる場合があります。
- 既存システムとの統合が前提になる
文書管理・FAQ 管理・チケットシステムとの同期など、RAG単体で完結しないプロセス設計が必要になります。
つまり、柔軟さ・最新性のメリットの反面、情報整備と検索設計の負荷が課題となります。
ファインチューニングも RAG も、「導入すれば自然に精度が出る」仕組みではありません。どちらを選んでも、更新や、改善作業を行うための運用体制を整える必要があります。だからこそ実務では、
- まずRAGで「回答の基盤」を作り、更新が追いつく領域を把握
- 固定化したい領域だけファインチューニングで補強
という進め方が、運用の継続性と成果を両立しやすい選択肢になります。
LLM活用の最適解は「組み合わせ」と「業務設計」にある
LLMを業務で活用する際は、まず 「どんな情報を扱い、どれだけ更新されるか」 を軸に考えることが重要です。
専門表現や固定ルールが求められる領域ではファインチューニングが役立ち、日々変化する情報やナレッジ参照が中心ならRAGが適しています。実務では、この両方を場面に応じて組み合わせる設計が現実的です。
また、実際の業務は「回答を返せば終わり」というケースはむしろ少なく、回答後に別のシステムへ入力したり、社内の承認フローを回したり、別部署に引き継ぐなど、複数のタスクが連動するのが一般的です。こうした「回答の先」まで求められる状況では、マルチAIエージェントという選択肢も検討できます。
CAT.AI マルチAIエージェントは、RAGの技術を活用しながら、その他にもさまざまな専門AIエージェントや既存システムと連携し、複数の業務やタスクを横断的に遂行できる設計を採用しています。回答生成に留まらず、データ取得・システム操作・手続き処理まで含めて一連の流れを自動化できる点が特徴です。
「どこまで自動化できるのか」「どんな構成が可能なのか」を具体的に知りたい方は、CAT.AI マルチAIエージェントの製品資料をご覧ください。マルチAIエージェントの活用シーンや仕組みを効率よく把握できます。
この記事の筆者

株式会社トゥモロー・ネット
AIプラットフォーム本部
「CAT.AI」は「ヒトとAIの豊かな未来をデザイン」をビジョンに、コンタクトセンターや企業のAI対応を円滑化するAIコミュニケーションプラットフォームを開発、展開しています。プラットフォームにはボイスボットとチャットボットをオールインワンで提供する「CAT.AI CX-Bot」、複数AIエージェントが連携し、業務を自動化する「CAT.AI マルチAIエージェント」など、独自開発のNLP(自然言語処理)技術と先進的なシナリオ、直感的でわかりやすいUIを自由にデザインし、ヒトを介しているような自然なコミュニケーションを実現します。独自のCX理論×高度なAI技術を以て開発されたCAT.AIは、金融、保険、飲食、官公庁を始め、コンタクトサービスや予約サービス、公式アプリ、バーチャルエージェントなど幅広い業種において様々なシーンで活用が可能です。

